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7.不思議の国の工場跡


7.不思議の国の工場跡

地下で見つけた種子は、小さな袋ごとドンたちに託すことにした。
力尽きてなお、食糧庫にたどり着いたその人が大切に抱えこんでいた、なにかのタネ。
「今のワシらに必要なのは、こういうものなのかもしれんな……」
ドンの呟きがいつまでも耳に残っていた。

アリスドームを出た4人は、さらに東へ徒歩を進め、教えられた通りに廃墟を抜けてから南へと進路を変えた。今更ながらその荒廃した大地をあらためて眺めつつ。
 歩くのにも飽きてきた頃、一行はやっと目的のプロメテドームに到着した。少し緩んだ顔を見合わせて、ホッと一息ついてから、プロメテドームの扉を開けて、中に足を踏み入れる。ところがそんなところにも、暴走機械が入りこんでいた。いきなり繰り出されるレーザー光線を辛うじて避け、それから戦闘準備を整えて、反撃に入る。建物の中なので、直接攻撃を中心に、回復・補助のワザを取り混ぜて片っ端から倒してゆく。
 「これで全部、かなあ?」
 マールがボウガンにつがえた矢を下ろした。まだ敵がいるかも知れないので、ボウガンは構えたままである。
 「……多分」ルッカが答え、こちらも銃を下ろし、緊張を解く。「……ってちょっと、あれ、何よ?」
 「あれって、どれの事?」
 「え、だから……あんた(クロノ)の、後ろよ、後ろ! 金属の腕に……光沢のあるボディ……まさか?!」
 「まだ暴走ロボットがいたの?!」
 驚いてマールがボウガンを構えなおす。
 「いや、違う……壊れてるんじゃねぇか、あれ」
 輝の言葉で、3人が恐る恐るそれに近付いてみた。コケのような緑色の細かいものに、金色の胴体とあまり太くない腕が覆われている。足だと思われる部分は大きな胴体の下で折りたたまれていた。危険はないと悟ったルッカが、早速そのロボットに歩み寄る。
 「かなり酷く壊れてしまってるけど……でも凄く良く出来てる。こんな完全な形で存在する二足歩行型ロボットなんて初めて見たわ」
 「いちおう1300年も経った未来の世界だからな」輝が腕組をしながら言う。「それぐらい科学が発達していたっておかしくはねぇだろ。……どうした? なんか珍しいものでもあるのか?」
 いろいろと調べ周っているルッカに輝が訊ねる。ルッカから返ってきた言葉は、クロノ達の予想を大幅に越えていた。
 「……直せるかもしれないわ。やってみても良いかしら?」

 ルッカの直したロボットはどうやらそのドームで多くの人間とともに暮らしていた家政婦的な役割をになったものだったらしい。本人曰く、本当の名前(製造番号)はR66-Yというようだが、それではかわいげがないというマールの主張で、新しく設定しなおした名前はロボだった。
 R66-Y、もとい、ロボから、ゲートがあると思われる部屋にはいるには、電気を扉に流さなければならないこと、そしてその電気を供給しているのは北にある工場跡だということを聞いた。と、すれば、ゲートを使って時代を移動したいのであればいやがおうにも工場跡に行かなければならないと言うことになる。
 電気が通じたらすぐ扉を開ける必要があるということで、プロメテドームにて待機する事となったクロノとマールをおいて、輝、ルッカ、ロボの2人と1体は、北の工場跡へと足を踏み入れた。

 先に立つロボが次々に侵入者を拒むセキュリティの数々を外していく。その端でアイテムを収集する輝に、ルッカが大げさに溜息をついた事はともかく、ロボの知識と輝の特殊能力、ルッカのキレ(後本人談)で暴走した警備ロボットとの戦闘を極力避け、無事工場跡の最下層まで到着した。パスワードでロックされていた戸を、やはりロボが開け、中へ入る。
 「アソコノ 柱ノ ればーヲ下ロセバ 非常電源ガ ON ニナル ハズデス」
 「さっさと終わらせてクロノ達のところに帰りましょ。……あ、それともおそめのほうがいいのかしらね?」
 「あの二入はほっといても進むと思うぜ、俺は。だから早くここを出ようが遅く出ようが同じじゃねえの?」
 「あ、それもそうよね。誰の目から見てもあの2人は御似合いよね〜」
 「……デ、ドウ スルンデスカ?」
 焦れたような様子もなく聞いてくるロボに、ルッカが、やっちゃって、と、素っ気無く、だが羨ましそうに答えた。機械だらけの生活の中でも、時折恋人という存在が欲しくなるのだろう。
 「ソレデハ」
 と、おもむろにロボがレバーに歩みより、ガコン、と、引き下ろす。きちんと下までおろされているかを確認したあと、ロボがふりかえって明るく言った。
 「ジャア、帰リマショウカ」
 そしてくるっと向きを変え、もと来た道を戻ろうとしたとき。
 突然異常を知らせるサイレンが高く鳴り響き、ついで地響きを立てながら眼の前にある金属製の扉が閉じ始めたではないか!
 「何々、どうなってんの?! これってどうしたのよ?!」
 「叫んでる暇があったらさっさと走りぬけろ! 出られなくなるぞ! ほれ見ろ、もう少しで閉じちまう……閉じ込められるぜっ!」
 叫び終わる頃にはすでに幅1mほどまで閉じてしまっている。
 「……ぶっ壊すしかねえのかっ……!」
 輝の右手に、金色の、雷の力が宿る。だが、魔法が編みあがる前に、輝の横を疾風のごとく駆け抜けたものがいた。そのまま眼の前で閉じようとする光沢ある扉の間に、少し斜め上加減で突っ込む。ちょうど、かたい金属製の身体がつっかえ棒のような役目を果たすように。
 「早ク、今ノ ウチニ!」
 挟まったままロボが叫んだ。心得て、ルッカと輝が急いでロボのボディの下を潜りぬける。2人が通過したのを見届けると、ロボは身体を滑らせて扉からするりと抜け出でてみせた。
 「ありがとう」
 すばやく礼をいったルッカに、ロボが口早に説明する。
 「せきゅりてぃしすてむガ 暴走 シテイル ヨウデス。一番 大キナ 障害ハ 先ホド 潜りヌケタ 防災扉デスガ、早ク ココカラ出ナイト、ホカノ防護しすてむモ 作動シテ、くろのサン達ノトコロニ 帰ルノニ 手間取ルカモ シレマセン。急ギマショウ」
 「でも行く手をふさいだ暴走ロボットはとりあえず倒してきたはず。この上どんなのが来るって言うのよ?」
 「そんなこと言われてもな……。巨石かもしれねえし、縦横無尽に走ったレーザー光線かもしれねえし、虎の子軍団かも知れねえし、さっきみてえな分厚い壁かも知れねえ。ま、ともかく戻れば分かるこった」
 閉じてしまって開きそうにない扉の横をすり抜け、一つ上の階まではしごを用いて登る。周囲に何も敵となりそうなものがないかを確認して、部屋を走りぬける。ついで廊下へ出てぐるっと回りこんでいったところ。
 「わ、わ、わ……なに、なに??」
いきなり次々と現れた『障害物』に、ルッカが急制動をかけた。
 「全身青……。身体のテカり加減から見てロボットであることは間違いなさそうだが、しかしどうしてこんなにもロボに似てんだ?」
 3人の前に立ちはだかった総勢6体のロボットたちは、背丈格好に備える武器など、どこを取っても横にいるロボとうりふたつなのであった。
 「オ、オ……オオ……」胴体がルッカ達より格段に重いからか、2人より少し遅れてその場に到着したロボがどもる。「ミンナ ミンナ 私ノ仲間達デス。ぷろめてどーむデ 姿ガ 見エナイト思ッタラ コノヨウナトコロニイタノデスネ。無事デ良カッタ良カッ……」
 「あぶねえっ!」
 Rシリーズに近寄ろうとしたロボを、輝がさっと引き戻した。ほんの1秒前までロボがいたところをRシリーズのうちの1体が放った伸びるパンチが通過する。
 「大丈夫、輝、ロボ?!」
 「私ハ……。シカシ……何故、何故……?」
 「失敗作メ」
 ロボの質問に答えているのか、それとも思い思いに言葉をぶつけているだけなのか、6体のロボットから次々に声が上がった。
 「オ前ナド我々ノ仲間デハナイ」
 「コノ面汚シメ、トウトウ人間ノ犬ニ成リ下ガッタカ」
 「裏切リ者!」
 「失敗作……? 裏切リ……モ、ノ……?」
 ロボが頭を抱え込む。ルッカや輝、当人のロボでさえも、相手の言葉の意味がまったくわからない。だが、ロボがどうやら辱められている事は間違いがなさそうだった。
 「一体なんなの、あんた達?!」ついにルッカの怒りが爆発した。「ウチのロボを苛めて……あんた達には思いやりとか優しさとか、そういうのはないの?!」
 「我々ニ ソノヨウナモノハ 必要デハナイ。要ルノハコノ工場ノ侵入者ドモヲ片付ケル、実力ダケダ」
 「そんなロボット、この時代の人達には必要ないわよ!」
 ルッカが叫ぶのと同時に、ロボット達は一斉に攻撃をしかけてきた。つまり、6本の腕がロボ一人を狙って飛んだのである。
 「ロボ!!」
 ルッカが悲鳴に近い声を上げた。輝の掌から、今度こそ魔法が発動する。
 「サンダガ!」
 輝かんばかりの金の光が、ロボを狙った腕ばかりか、本体の方までも包み込む。乱れ竜のような力もつ天の力はロボット達の精密に編まれた回路を暴れまわり、随所随所で狂わせもした。がらんがらんと派手な音を立ててRシリーズが次々と床に倒れて行く。
 ……だが、そのような強力な電磁波を受けてショートするのは、ロボも例外ではないわけで。
 「あんた、やりすぎーーっ!」
 今度こそ悲鳴のような叫びである。しばらく手持ちのドライバで弄繰り回していたが、すぐにルッカは諦めてしまった。
 「まずはプロメテド−ムに運んで、直すのははそれからよ。こんなトコにいつまでもいたくないし、クロノ達も心配してるだろし」
 「……修理、ね。ま、せいぜいがんばれよ」
 そのまますたすたと出口に向かって歩き出した輝の背後から、またもや熱を孕んだ殺気が襲いかかった。
 「あ〜ん〜た〜がぁ〜やったぁ〜のぉ〜よぉ〜〜〜!!」
 「うわっ、わかった、わかったよ! 俺がドームまで運ぶよ!」

 「派手に壊れてどうしようかとも思ったけど」ふう、とルッカが溜息をついた。前でちょこんとあしを折り曲げて座っているのはロボ、背の方にはきちんと開いた扉。「なんとか直って良かったわ。……ちょっと、輝。これ以後あんなコトしたらあんたの胴体に風穴開けてやるからね!」
 「本当にやられそうで怖いぜ、お前の場合、な……」
 深く溜息をつく輝を見ながら、クロノがなだめるように言う。
 「まあまあ、直ったんだから良いんじゃないかな? それより、俺、早くあっちの部屋のゲートに入りたいんだけど」
そう、プロメテドームの閉ざされた扉の奥には、間違いなくゲートがあったのである。
 「あ、そーだった。ロボの事が心配で心配で忘れてたよ、私っ。ね―ね―。早く行こう!」
 うきうきと弾むようなマールに頷いて見せながら、そういや、と、ルッカがロボに尋ねる。
 「ロボはこれからどうするつもりなの? アリスドームでドンたちと暮らすなら送るけれど?」
 ロボは間髪をいれずそれに答えた。
 「イイエ。私モアナタ方ト同行サセテイタダキマス。私モ見テミタクナッタノデス、ドウヤッテコノ状態ヲ変えてイクカヲ……。ソレニ、コノ時代ニ私ノイル場所ハ、恐ラク ナイデショウカラ」
 「じゃあ、決まりだ」クロノが満足げに頷いた。「5人で一緒に行こう、あのゲートの先へ!」
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