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2.帰ってきた王女
2.帰ってきた王女
「うわっ!」
いきなり赤やら青やらの光線が渦を巻いて走る時空間から、2人は放り出された。
「……何か……今日痛い思いをしてばかりのような気がする……」
地面に座り込んだまま、クロノが頭を振った。
「確かに、な。……あ、用心しておいたほうがいいんじゃねえか?」土が剥き出しになった場所から、周りの林を眺めていた輝が、不意に振り向いて肩を竦めた。「2度あることは3度……。あったかな」
「……うわ」
クロノが慌てて起きあがった。輝はクロノの方を向いたまま、頭部だけを動かして後ろを見た。小さな緑色のカラダに、これまたちっぽけな服を着たものが、まるで頭数併せとでも言うように、4人……いや、4匹。
「モンスターの一種か?」
クロノが輝に訊く。
「えぇ、と……。確かジャリ―だ」
答えると同時に、一斉にジャリ―が石を蹴ってきた。2人が慌てて石礫を避ける。
「全く……いじめっ子集団かよ……」輝は溜息をついたが、とりあえず、邪魔なものは片っ端から、しかも派手なやり方で排除していかないと気の済まぬ輝である。最初のバトルから、「サンダガっ!」
ジャリ―との戦闘を終え、クロノ達が山を下って行くと、一つの街に出た。ぱらぱらと植えられた植木、2つ3つまとまって建てられた建物、ひときわ大きい町長の家、そして町外れに設けられたグッズマーケット。
「あれ……。おんなじトルースの街じゃないか」
拍子抜けしたような、クロノだったが、自分の家の場所にある家を外から伺ってみて驚く。
「知らない人……。そういや表札もウチのじゃないし、郵便受けも違うし、俺んちたしか牛乳を取ってるはずだよなぁ??」
「牛乳は知らんが、ともかくさっきまでいた街とは少し違うよな。リーネ広場もねぇし」
「……そう言われればそうだね……」
なんやかんやと話しつつ、あたりをきょろきょろ見まわしつつ、どこに向かうともなく歩いていると。
「おーい、そこの2人組。探してるものでもあるのかね?」
バーの外に設けてある席で大ジョッキをあおっていた大男が声を掛けてきた。その顔はかなり赤い。手に持つビールが一杯目、というわけではなさそうだった。
「え、えっと……」
いきなり話しかけられて戸惑うクロノに輝がすばやく耳打ちする。
「無視しろ、無視! 昼間っから酒飲んでるヤツらにマールの情報を求めても、そりゃムダってもんだぜ!」
「で……でも……」
煮え切らない態度の仲間に痺れを切らせた輝が、無理矢理にでも連れて行こうとすると、あろうことか、かの大男、ジョッキを片手にデッキを降り、こちらへ向かって歩いてくるではないか。
「ん〜〜? 見たことのねぇやつらだなぁ? ……ヒック。あ―わかったぜぇいー。うん、うん、なるほどなぁ〜」
一人で理由を想像し、一人で納得するその行動が、ただでさえ腹の立っている輝の感情を逆撫でしたことは、ほぼ間違いがなかった。
「一人で話を進めるなよ! 聞いてるこっちはワケがわからねぇだろが」
「ん〜ん〜……。何ら違うのけぇ〜? いったん失踪して行方知れずになってた……ヒクッ……。リーネ王妃が帰ってきたからって、野次馬根性でパレポリ辺りから出てきたんじゃあねぇのかぁ〜??」
「……野次馬ね、野次馬。酔っ払い野郎よりよっぽどマシな根性してるだろうよ」
不機嫌そうに腕組をしたまま、輝が皮肉を言ったが、相手は怒るほど気を保てていなかったのだろう、続けて喋り出した。
「あぁ、良かったよなぁ。なんたって王妃は黄金の巻毛にお花のかんばせ、深い海溝を想像させる深みのある蒼の眸、雪のような肌に、卵型の容貌、桃色の優しい色の唇には何があろうと微笑を浮かべていなさる。このガルディアの女神様的存在だもんなぁ。トルースの裏山で見つかったと聞いたときゃぁ、みんな涙を流して喜んだものよ。うんうん、あれからもう3日が経つんだなぁ……」
「あーそうかいよかったな! あいにく俺等はリーネ王妃の噂どおりなら輝かんばかりの顔を拝みに来たんじゃねぇんだよ。……じゃあなおっさん、いくら酒に強くとも、飲み過ぎと食い逃げはあとあと響くぜ!」
「……食い逃げ……?」
クロノが首を傾げた。つづいて店の奥から出てきたおかみさんが、
「外に出るなら今までの勘定を……」
と言ったとき、既に男の姿はなかった。
「……なぁ、クロノ」再び歩き始めた後、輝がクロノに言った。「あの酔っ払いが言ってたリーネ王妃だけどよ」
「うん。……あ、ちょっと待って。グッズマーケットに寄っていい?」
いつのまにか、町外れのグッズマーケットまで来ていたのだった。
「モンスターがいるのなら、ポーションと、シェルターを買っといたほうがいいからさ」
ドアを開けると、店の主人らしき中年の男性がカウンターから、いらっしゃいませ、と声を掛けてきた。
「えっと、ポーション2つと、シェルターを1つ下さい」
「ハイよ。少し待ってくださいねぇ」
男性がしゃがみこみ、カウンターの中を探り出した。中にすべてしまってあるのだろう、カウンターの外にあるのは、武器防具類と、お品書きをだけである。
「あまりいい武具はねぇんだな」
辺りをくるっと見まわした輝がそういうと、品物を出し終わって顔を上げた男性が苦笑した。
「ずっとガルディア軍と魔王軍が戦ってるでしょう? あれで防具やらなんやらが全部城に流れちゃって、入ってこないんですよ。……ああ、全く。早く終わってくれないですかねぇ……。失踪していた王妃様が帰ってきてくだすったことは喜ばしい事ですけれども、そのほかは全く暗いニュースばかりです」
「……魔王軍……ですって?」
クロノが聞き返した。
「ええ、それがなにか? ……あぁ、そうだ。こちら合わせて3品で、ちょうど200Gになります」
「……? あ、えっと、200……」
ふたたび首をかしげたクロノだったか、とにかく、代金を男性に渡し、グッズマーケットの外に出た。
「魔王なんて、ずっと昔に攻めて来たってあれだよね? どう言う事なんだろ……」
「……俺に聞かれてもなぁ…。それより、さっきの奴も言ってたよな、リーネてひとのことをよ」
クロノが輝を、不思議そうに見た。何を言い出すのだろう、と、問い掛けるような眼である。
「さっきも言いかけたんだが、男の話す『リーネ』って、なんとなく……マールに似ちゃいねぇか? 確かに金髪碧眼なんて一杯いるがよ。……それに、俺……」そこで輝は一度言葉を切り、再び出した言葉は、これだった。「実はリーネって奴を見てみてェんだよ」
グッズマーケットの先、クロノ達が来たところから見るとちょうど真西に当たるところに、ガルディア城へと続く小さな森がある。通称『ガルディアの森』と呼ばれるところである。
「あんまり好きじゃないんだけどなぁ……この森」
入り口に到着したときにクロノが零した。
「んん? なんでだ。地形か雰囲気かそれともモンスターか?」
「うん」クロノが頷いた。「モンスターがね……。毎回毎回邪魔してくれるんだもんなぁ。そのおかげで剣術がある程度身につくまでガルディア城を間近くで見れなくって。大人の人なんかは、『凄かった』って話してくれるんだけど、……悔しかったなぁ」
「あ―……それでお前木刀を持ってるのか。じゃあ何故そんなモンを祭りに持ってきているんだ?」
輝が尋ねると、クロノはそれは……その、と口篭もっていた。恐らく、何度も何度もガルディア城の勇姿を拝みにガルディアの森を抜けていたのだろう。……親の承諾無しで。一人、もしくは友人と共にモンスターの巣食うガルディアの森を抜けるには、木刀は必携、と言うわけだ。それがしょっちゅうの事になり、やがて、無意識のうちに木刀を装備するようになったに違いない。
「そ、それよりさ」そう言うクロノは焦って少しどもりがちである。「早く……抜けちゃおう。俺のしってるガルディアの森と入り口の様子は似ているから、もしかしたら構造は一緒かもしれない」
「そうだなぁ。幾度となくこの森に挑んだ経験者がいるのなら楽に抜けられそうだしな」
輝の言葉に、クロノの顔一杯にバツの悪そうな色が広がった。
目指すガルディア城は、目前である。