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おくりもの。


 『ちょっと行ってきます』
 メールボックスに突然届いたシンプルメール。そこにはたったそれだけのことが書いてあった。受け取り手として指定されたハンターズは、……彼は得意武器や戦闘スタイル等からヒューマーといわれる集団に一応属している者だが、数秒間そのシンプルメールと向き合った。最初は一瞬で、2度目はゆっくりと、そして3度目は文面を確認するためにながして読み、それからおもむろにボックスを閉じる。
 それから何もないヴィジュアルロビーにいつもの通り膨れ現れたフォトンチェアに静かに腰を沈ませた。
 「……まあ、何時もの事なんだ」
 同じロビーに誰も居ないことを確認しながら、ぼそりと呟く。
 「もうちょい……他人に解る様に……わかりやすいメールを送ってくれない物かね、蒼夷は」
 掌で顔を覆い、大きく、息を吐いた。房で垂らした右前髪がふわりと大きく揺れる。
 それからギルドカード一覧を手馴れた手つきで呼び出した。蒼夷は、ちょっと、「どこへ」行ったのだろう。

 「うー……、あのコも違う……」
 柱の陰から溜息が漏れた。青い大きな瞳が悲しそうに震える。その瞳が見ているのはのんびりと日光浴をしている白い鳥類だった。エル・ラッピーと呼ばれるエネミーである。彼女のつかんだ、ヴァーチャルである筈の柱の冷たさが手を通じて嫌に冷たく身体に染み渡った。それでなくとも12月は寒い。ヴァーチャルマップであるのに……寒い。
 彼女が見たエル・ラッピーは、本日すでに12匹目だった。会うラッピー全てが白かった。
 「もう居ないのかなぁ……」
 寂しそうに呟きながら凍えかけた掌に息を吐きかける。
 「んもぉお」
 それから何かを吹っ切るかのように頭を大きく振り、手を前に突き出し、叫んだ。
 「あなたじゃないっ!」
 まだ幼さの残るその声と同時に地面を稲妻が走った。さらにもう1回。
 ぽつんと残されていたメセタデータを転送してから、空を見上げる。人工に作られた雲がゆっくりと流れていた。
 降りてきた視線がふと神殿エリアの或る個所に引っかかった。元々あまり来ない神殿エリアではあるが、特に行かない区画へ続く道であった。その方向にあるのはアイテムボックスで、拾いに行けばアイテムパックがいっぱいになってしまうため普段は素通りしてしまうのである。
 大抵のハンターズはそういった理由でその道には進まなかった。しかし、蒼夷には行かないもうひとつ理由があった。アイテムボックスが並んでいる個所は、同時に高所だった。高山エリアのような、足場の確りとしたところならまだしも、木材が組んであるだけの神殿エリアの「其処」は苦手だったのである。
 そんなところに、何故かそのときだけは惹かれた。今ならさほど怖くない気がしたのだった。
 「あっちって敵いたっけ……」
 そんなことをのんびりと考えながら横道に入る。青の転送装置を抜けるとすぐ木枠の上に蒼夷は放り出された。直後、蒼夷は彼方に望む夕日ではなく下を見た。途端に足が震えだす。後悔が身体を突き抜けた。寒さも寂しさも、何をしに来たかすらも忘れ、ただ恐怖だけが脳を埋め尽くした。知らず知らずのうちにぺたんと腰をつく。その衝撃で少しだけ感覚を取り戻した蒼夷は、すぐさまそこから離れる転送装置の方へと進もうとした。だが、上手く力が入らない。這いつくばるようにして数メートル進んだところで後ろから引っ張られる力を感じ、蒼夷は振り向いた。見れば水色の裾が木枠に引っかかっている。泣きたくなるのを堪えながら蒼夷は少し身体を戻した。突っ張った裾を弛ませなければはずす事はできない。
 何とか引っかかった裾を木枠からはずしたその時、蒼夷の体がふわっと浮き上がった。まさか、落ちたのかと眼を瞑った蒼夷だったが、事実は逆で、単に抱き上げられただけであった。
 「えぇと、何故此処に居るんだ?」
 「御影っ」
 安心すると同時に体中から力が抜けていく。
 「此方は誰も来ないだろ。そもそも如何して神殿なんかに?」
 答えようとした蒼夷の視線が御影から外れた。それは単に恥ずかしさの所為だったのだが、動いたその視線は「鳥」を見つけた。近くのエリアを……勿論、アイテムボックスエリアよりは幾分か低いところをゆったりと歩いている、赤い鳥を。
 「あ、あ、あああ!」
 「……?」
 「あそこ、あそこぉおお!」
 腕の中で思い切りその鳥を指し示す。御影もそれにつられて其方を眺め、それから、あぁ、と、合点した。
 「セント・ラッピーか。そういやこの時期だけヴァーチャル神殿に紛れ込ませるとか何とか通達が来てたな。……って、蒼夷、お前、あれ探しに……?」
 「そう、……あっ。待って! サンタさーん!」
 答えながら蒼夷は御影から降りる。そうして一目散に転送装置に飛び乗った。先ほどまでの恐怖は綺麗さっぱり消えうせていた。

 蒼夷の後を追った御影が現地に着いたとき、すでに蒼夷はセント・ラッピーからクリスマスプレゼントを貰った後だった。セント・ラッピーが去るのを二人して見送る。
 「居るもんだなぁ」
 御影が息を吐いた。出現数は相当少なく設定されている筈であった。それじゃあ帰るか、と、声を掛けようと蒼夷を見て、差し出されたプレゼントを見て驚く。
 「……へ?」
 「はい、メリー・クリスマぁス!」
 自分用にセント・ラッピーを探していたのか、と、知ると同時に、メールを寄越したこと、神殿の一エリアで座り込んでいたことなど、様々な疑問が頭を過ぎった。過ぎったが。
 「……まぁ、行動に一貫性が無いなんて、何時もの事か」
 口の中でそう呟き、ふっと笑って受け取る。
 「有難う」

 その中身が悪魔のハネであり、それが判明した時点でも一悶着あったのだが、その描写は割愛する。

-END-